保坂新の戯言集

どこかの誰でもないアンポンタンがどこかの誰かである人が作った作品にうだうだ一丁前に評価を下すブログです 話半分に流していただければ幸いですTwitter:@chuhri0703

Summer Pockets

今作はAngel Beats 1st beatからは3年、Rewriteからは7年の月日が経ち、久々の完全新作である長編ビジュアルノベルです。

Keyの近年のRewriteの失策や麻枝准の病気、メインスタッフとして黎明期から支え続けてきた樋上いたるの退社などで崩壊寸前と言われ、今作でまた失敗したら本当にKeyは終わるとまで言われた状況で発売された作品でした。

今回はそんな作品を紹介させていただきます。

 

あらすじはこちらから↓

 

Summer Pockets -サマーポケッツ- (サマポケ) オフィシャルサイト | Key Official HomePage

 

Summer Pockets 初回限定版

Summer Pockets 初回限定版

 

 

 

ランク:Sランク

 

今回のヒロインの数は過去作と比較しても少ないものの各々の物語による積み重ねと隠しルートによる爆発力は過去作と比較しても引けを取らない出来となっています。

ただ過去作と展開が類似しているものが多くみられるため過去先への思い入れが強ければ強いほどそこに引っかかる可能性は高いです。

しかしそれを抜きにしても主人公たちが出した答えとその結末の眩しさは忘れられないものでした。 

 

シナリオ傾向:少数集団型

傷心の主人公が島で出会う友人やヒロイン、たくさんの住民とのふれあいでもう一度眩しさを思い出すまでの物語です。

馬鹿な友人や奇行に走るヒロイン、どこかネジの飛んでしまった住民たちの一人でもかけてしまったらこの物語は成り立たないと言い切れるほど全キャラクターが個性を放ち、作品形成に働いています。

 

CAUTION!(若干のネタバレあり) 

 

キャラクター紹介

 

  1. 鳴瀬しろは

    f:id:chu-linozaregoto:20180710085118j:plain

     

本作品における全編を通してのメインヒロイン。

事前情報ではAngel Beats!の立華奏に似たキャラクターと予想されていましたがふたを開けてみれば全く違ういいキャラクターをしていました。

個別ルートでのテーマは主人公とともに「夏休みの過ごし方」を思い出すまでの物語。

どこかポンコツでボッチな彼女が主人公と共に傷を癒していく流れはKey作品では今までなかったルートではありますが夏休みをうまく書くことができています。

また他のヒロインのルートでもボッチながら友人を思いやる姿は見え隠れしており、その部分も最後にはうまくつながっていきます。

個人的にはプレイ後最も評価が上がったキャラクターの一人です。

 

  1. 空門蒼

    f:id:chu-linozaregoto:20180710085110j:plain

後悔を乗り越えるための物語。

作中における設定の多くは彼女のルートで語られ、あるルートとのつながりをします話が隠されています。

他のルートでも話を回す役として活躍しており、本編中では少年団の三人と合わせて作中のムードメーカーとして活躍しています。

特にどのルートでも発揮される頭の中のピンクっぷりは作品に常に笑いを与えてくれました。

自分のルートでは自らの過ちで眠りについてしまっている姉を救うために身をぼろぼろにしてでも必死に足掻く姿は胸に来るものがありました。

またラストの代償を払うまでの流れからEDの直前までの流れは本当に見事でCGの美しさと相まって主人公が主人公らしく格好いい姿を見せてくれました。

 

 

  1. 久島鴎

    f:id:chu-linozaregoto:20180710085122j:plain

過去の約束を守りにきた少女。

体験版時点では幼馴染キャラと予想されていた彼女の真実へのミスリードは革命的手法で恐らく今後似たような方法で使う人が現れるのではないかと思えるほど見事でした。

幽霊系ヒロイン特有の別離の悲しさよりもまたいつか会えるという希望に満ちたラストへの流れはKeyらしくもあり、奇麗な物語としてしっかりと完結している点も見事でした。

しかしALKAを含め、登場回数が最も少ないヒロインのためそのキャラクターがあまり発揮されていなかったので、本編中でももっとキャラクターごとの絡みがあってほしかったです。

 

  1. 紬・ヴェンダース

    f:id:chu-linozaregoto:20180710085114j:plain

不思議系ヒロイン。

彼女のルートは親友の静久と3人で過ごす最後の夏休みをどこまでもKeyらしく描かれていました。

序盤の不思議な言動と行動に振り回される可能性ではありますが、中盤からの紬の正体に肉薄する流れからは読む手が止まらなくなる没入感があります。

特に終盤の紬のために力を合わせる友人たちの流れはリトルバスターズを思い出すどこまでも優しさに満ちた話でした。

過去作が好きな人ほど、特にKanonの真琴やCLANNADの風子が好きな人ほど気に入るルートではないかと思います。

 

  1. 加藤うみ(ALKA,Pocket)

    f:id:chu-linozaregoto:20180710091206p:plain

本編におけるもう一人の主人公。

ルートを重ねるにつれ変化していく彼女を追うのは中々辛いものはリトルバスターズでの鈴と似て非なる辛さを感じさせてくれました。

ALKAにおいて本作最大の秘密が明かされるがそこから彼女の願いが叶っていく流れは本当に美しく、この流れだけでも傑作と言い切ってもいいレベルでした。

ただ過去作ヒロインルートに類似した部分も見え隠れするのは少し問題だとは思います。

しかしそれを差っ引いても3人の物語が進む中何度涙したかわからないほどで、過去作をやっていない人ほど胸に刺さるものがあると思います。

Poketはそんな彼女が大切な人を助けに行く物語。

彼女がそれまでにもらってきたたくさんの思い出を届けるために、何もかもを失ってでも進む姿と最後に得た時間はKeyらしさの塊と言えるだろう。

 

  1. その他

    f:id:chu-linozaregoto:20180710091151p:plain

今作においてサブキャラの活躍は過去作と変わらず非常に大きなものがありました。

特に全編を通して活躍し続けた野村美希、三谷良一、加納天善の少年団の面々はもちろん、紬ルートにおける水織静久、蒼ルートにおけるイナリと空門藍といったキャラクター達がいたからこそこれだけ夏休みを描くことができたと思われます。

そのほかにも立ち絵のない少年少女たち、駄菓子屋のおばあちゃん、四神の皆様、ラジオ体操のお兄さん、その他多数の濃いキャラクターの住民たちの存在は今作でかなり重要なものとなっています。

 

CAUTION!!!

ここからは完全にネタバレです

未プレイの方は絶対に読まないでください

確実に後悔します 

 

各評価理由

 

1.雰囲気
背景、音楽、キャラクターすべてを動員してどこまでも夏休みを描くことができており、ビジュアルノベル史上最高ランクの出来であるといえると思います。気まぐれで選んだ駄菓子屋での子供たちとのやり取り、秘密基地での友人とのたわいのない話、夏の冒険、どれも今回の夏休みというテーマを描くために欠かせないピースとなっており、ヒロインルートが終わった後でさえ彼らとの日常を楽しむことが可能となっています。

夏と言えば過去作にAIRがありますが、今作と比較すると夏休みではなく夏がテーマとなっており、友人との過ごし方などの要素が薄くなってしまっています。この点ではSummer PocketsAIRを超えることができていると断言でき、AIRにおいて欠けていた人とのつながりの大切さをより描くことができていると思います。

この雰囲気はティザーの時点で既にはっきりと描かれていました。


『Summer Pockets -サマーポケッツ-』ティザームービー

 

 

2.BGM
Keyにおける重鎮ともいえる麻枝准折戸伸治の安定した音楽のクオリティはもちろん、SAGAPLANETSなどのブランドで活躍している水月陵tone work’sやFrillでその才能を遺憾なく発揮しているどんまる、そしてボーカル曲において高いクオリティのものを輩出し続けている竹下智博といったメンバーがそれぞれの持ち味をぶつけながら夏を表現しています。

今作は過去作と比較すると曲にシーンが食われるといえるほどの曲のクオリティは見られませんでしたが、シーンを彩るために効果に使われています。
中でも麻枝氏によるSea, you & meは一番最初に流れ、オーラスEDにまでそのメロディは使われるほど重要な曲となっており、曲名通り羽未、しろは、羽依里の3人の物語を描くうえで欠かせない存在でした。

またKey恒例ともいえるOPでのネタバレ祭りも今回も健在でALKA終了後はまともにアルカテイルを聞くことはできないと思います。

 


3.キャラクター
今作の特徴として一人として泥をかぶったキャラクターが存在していないことははっきりと評価したいところです。

過去作なら生徒会役員や風紀委員、その他たくさんの嫌味なキャラが出てきました。しかし今作においては明確に悪役となったキャラクターは存在しません。(大人羽依里が少しやらかしているように見えますが考察してみると裏が見えてきます…)
またヒロインルートの出来がKey作品中最高標準という点も大きな特長でもあると思います。青春をうまく描き切ったしろはルート、姉のために必死に努力する姿を見せた蒼ルート、そして夏休みというテーマを最大限に活かし切った結果、個別ルートでは最高傑作レベルの紬、鴎両ルートはギミック、演出共に見事な出来であったといえるでしょう。これらの出来の上で少年団や静久といったヒロインと主人公を助けるキャラクター達も非常に魅力的に描かれていることも評価すべき点であるといえます。この他にも名前の出てこないモブキャラクター達も非常に良いキャラクターをしており、夏を描く一助になっているのではないでしょうか。


4.演出
特に印象的であったとしてしろはルートラスト、蒼ルートED直前、紬ルート終盤、ALKA終盤、PocketED前を挙げたいと思います。
まずしろはルートラストにおいては最後の最後で告白し、船に乗って別れると思わせて船が返ってくるシーンは本当に笑わせてもらいました。このルートは泣けるという要素よりも夏休みを描くことに注力しており、このシーンもしろはと主人公の関係性を象徴したシーンとなっており本当に素晴らしかったです。

f:id:chu-linozaregoto:20180710211527p:plain


蒼ルートラストは代償として眠りにつく蒼を背負い、島を歩き回り、腸が消えていくシーンの一連の流れです。別れがわかっているのにいつも通りの明るさ、そして美しいCGからの去っていく七影蝶の流れのはかなさはつらくもきれいな物語となっていました。

f:id:chu-linozaregoto:20180710211538p:plain


紬ルート終盤は散見される描写から紬の正体がぬいぐるみであることは多くのプレイヤーは理解していたものの、最後の最後まで自らの言葉で正体を明かさずに感謝の言葉を残して消えていく姿は涙なしでは見ることができませんでした。

 

f:id:chu-linozaregoto:20180710211600p:plain

ALKA終盤におけるうみの存在が消えていく描写や写真や花火のCGを使った消えた存在を思い出そうとする姿は見事でした。特にCGについては発売前から公開されていたCGで存在がわかっていたシーンでもあったことから情報を追いかけ続けていた人ほど衝撃を受けたでしょう。

f:id:chu-linozaregoto:20180710211609p:plain


そしてPocketED前の流れにおけるこれまでのうみが受け取ってきた大切な思い出たちをしろはに返し、最後の最後でまた再会できるというものはありきたりながらも非常にうまくできていました。またこのシーンにおいて幼しろはの台詞が大人しろはに重なる流れが存在し、そこからの慟哭は何度も涙を流すことになりました。

大切な母を救うために思い出も姿さえも失い、それでも最後には母親の腕の中で消えていく流れは何度見ても胸に来ます。

f:id:chu-linozaregoto:20180710211619p:plain


 
5.脚本
今作最大の評価点は個別ルートのクオリティだと思います。
Key作品において個別ルートの弱さは公然の事実になっていたが、今作では改善されており、どのヒロインに対しても思い入れを持つことができます。
またそこに重ねられた思い出とうみの幼児化の流れはKey作品らしさを描く上で表情に効果的な演出となっています。

それぞれの個別ルートに関しては鴎ルートにおける幼馴染へのミスリードや最後の読了間の見事さは他に類を見ることができないレベルでこのルートの存在だけでも今作をプレイする価値があると言えるでしょう。

f:id:chu-linozaregoto:20180710211550p:plain


しかし作中では他作品で見られた展開が多くみられるのも確かなのでその点はマイナスであるといえます。しかしシーンにたどり着くまでの道のりは同じであったとしても出した答えは違います。なので羽依里、しろは、そして羽未の物語としては最高のものとなっていると私は信じています。

 

総評

この作品が発表されたのは2016年末のことでした。

当時Rewriteのアニメ化に失敗し、Charlotteは賛否両論、AngelBeats!は分割の続きは出ない、麻枝氏は床に臥せ、都乃河、いたる両名はKeyから姿を消しました。

そんな中発表された今作はファンの間でも賛否両論を呼び、Keyの終焉さえ叫ぶ者も少なくありませんでした。それでも2017年末でのティザーPVの公開や体験版のたびに少しずつ信じてくれるファンが増えていった流れをその一員として渦中で眺めていました。

そんな流れだったからこそ今のこの作品の評価は自分のことのようにうれしく思い、信じていてよかったと心から言うことができます。

だからこそ最後に言いたい。

 

この作品はKey最高傑作のひとつである

 

麻枝准はもちろん、久弥直樹涼元悠一都乃河勇人樫田レオといった今作には参加していないシナリオライター達の息吹をしっかりと受け継ぎ、樋上いたるの欠けたKeyをふむゆん女史や外注の方々がしっかりと埋め、AIRからいなくなってしまった戸越まごめの穴を前線で走り続ける音楽家がカバーすることができている。

そして過去作のテーマを活かしつつこれだけの物語を作ることができたのならそれは最高傑作に互いないでしょう。

願わくは一人でも多くの人にこの作品が届きますように…

そして次は欠けてしまった人たちも戻ってさらに高みを目指してほしい。

そんな思いを抱きながら鳥白島の物語をもう少し読み続けようと思います。

 

大切な思い出でポケットをふくらませながら…