保坂新の戯言集

どこかの誰でもないアンポンタンがどこかの誰かである人が作った作品にうだうだ一丁前に評価を下すブログです 話半分に流していただければ幸いですTwitter:@chuhri0703

【ラフノート】MUSICUS!

はてさて今年も始まって2週間ですよ。

今年もよろしくお願いします。

さて早速ですが今年一発目のラフノートです。

というか半年ぶりです。

アイスキも書いているのですがちょっと諸事情で先にMUSICUS!を書かせていただきます。ベストエロゲも近いのでそろそろ本気で書いていかないといけません。

では今回もお付き合いを。

 0.初めに

皆さんは瀬戸口廉也シナリオライターをご存知ですか?

エロゲ業界に長く体を沈めているのなら一度は聞いたことのあるライターだと思います。

「CARNIVAL」「キラ☆キラ」「SWANSONG」といえば伝説の鬱ゲーと呼ばれる作品でもあり、10年以上新作を作っていないにもかかわらずその名は褪せることもなく長く語り継がれていました。

さてそんな彼は何をしていたか?それは唐辺葉介という名で小説を書いていました。出版された本は大体絶版で中古価格もお高い…というか出版数が少ないのにコアなファンがいるせいで市場に流れず中古価格が高騰しているというのが実情な気がします。

そんな彼がエロゲ業界に帰ってきました、二本のゲームを製作すると宣言して。

一本目は「BLACK SHEEP TOWN」です。

https://blacksheeptown.tumblr.com/post/159038009584/key-visual-1

blacksheeptown.tumblr.com

こちらはスタッフからCARNIVALのディレクターが参加されていることからそちらの方向性と予想されています。

発売は2017~2018年…はい、いつものやつです。

こちら何故遅れているかはすでに判明しております。

 こいつです。

いやいやなぜ今更…つーかマジで待ったぞおい。ということで多分今年出るんじゃないっすかね…いやつーかでろよ。

そんなこんなで期待の一作でございます。

そしてもう一つが今回紹介するMUSICUS!です。

この作品、クラウドファンディングを使って資金を集められました。当時色々悩みましたね…どのコースに突っ込むか、まだ学生だった自分には高額なコースに入れる資金も度胸もなく松コースを選びました。サントラほしかったんですよね。

そして今か今かと送られてくるのを待っていたのですが…まあ延期しますよね…

予定では6月、奇しくも前回のラフノートである「月の彼方で逢いましょう」と同じ月に届く予定だったのですが延期して10月、そして11月、気が付いたら12月と一般販売と変わらず…

マジでふざけんなよ

正直ブチ切れてました。訳の分からない雑誌作ってイキってるし、なんか一般販売分は安くし始めるし…まあ思うとこしかない。

そしてあらかじめ言っておく。

演出とUIに関しては今年良い作品だと思ったものの中でもダントツで最悪

本当はこんな作品に入れたくないんですよ、舐めたことしまくってる連中なんて評価したくない。ノベルゲームとは色んなものの総合的な評価をするべきだと思っている自分としては正直唾棄したくなる代物です。

ならなんでこんな記事を書いているのか?それを越えたものを見せてくれたからです。

1.世界観

さてはて早速いきましょう。今作は体験版をHTMLで配信しています。気になる方はこちらをやってみましょう。

 

今作はとある事情で高校を辞め、定時制高校で日々を過ごす主人公井上馨がとあるきっかけで出会ったバンドマン花井是清の音楽に感銘を受けた結果、音楽という世界にのめりこんでいく話です。

描かれるのは音楽活動の厳しさ、苦しみ、そしてその先にあるほんの少しの輝きです。実質的な前作であるキラ☆キラでは学生バンドから見たひと夏の音楽活動と何故音楽を続けていくかが描かれましたが、今回はその先の音楽を続けて見える物が主題として描かれていると考えています。

事実この企画がスタートした理由は瀬戸口廉也の「キラ☆キラで描くことができなかったその先を描きたい」という思いからということが語られていることからもそれが察することができるのではないでしょうか?

そんな彼らを取り囲むのは個性豊かな定時制高校のメンバー、バンド活動を行っていく先ですれ違う音楽に命を燃やすバンドマンたち、そして全員頭が狂っていると断言してもいいDr.flowerです。

躁鬱でも患っているのかメンタルに問題しかない花井三日月、とりあえず音楽さえできりゃいい香坂めぐる、唯一のまともだったのに早々に…田崎京香、超自信家の変態髙橋風雅馬鹿金田、まあ大体みんなヤバい奴。なのに絶妙なバランスで見てて最高に楽しいバンドでした。

そんな彼らが音楽という厳しい世界でいかに生きていくか?それが今作です。

ここからはネタバレが入っている可能性が高いです。嫌ならおかえりください。

つーか我々のおかげで安く買えるんだからか(ry

2.共通ルート

今作は最近では珍しい、どのように音楽に向き合っていくかを選択することで物語が分岐していく階段分岐です。話によると選んだ選択肢によっては出てこないもあるとかないとか…意外と複雑な構成となっているようです。今回は体験版パートを共通ルートとさせていただきます。

主人公が花井是清に出会ってしまい、音楽の呪いを授かってしまうのがこのパートです。

花井是清というキャラクターの愉快さやいい加減さ、そして三日月のぶっ飛びっぷり、この3人の日常が面白いんですよね…滅茶苦茶馬鹿っぽくて。

…だからこそそんなやり取りが突然、そして無味乾燥な簡単な文で終わりを告げたときはかなり衝撃的でした。

彼がなぜそのような選択を選んだのか、それを追いかけていくことになります。

ここから長い長い音楽の意味を追い求める物語が始まります。本当に瀬戸口廉也は性格が悪い。

3.尾崎弥子

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さて一番最初に分岐するのが彼女のルート、音楽の呪いにかかり切らなかったルートです。

はっきり言うとこのルートは嫌いですね。

まず主人公がかなり上から目線なんですよね…少しの間バンドで活動していたからといってちょっと上から目線過ぎだと思いました。ただそれも意図があってのことなのがわかるのでまあ我慢できます。問題はそれを肯定してしまう学生バンドのメンバーです。ここに魅力を一切感じなかったし正直質の悪いなろう系シナリオにしか感じなかった。もっと主人公の音楽の呪いにかかっていることを実感させるものにしてほしかったですね、この作品で唯一のシナリオ面での不満点です。

ですがその呪いを解いた弥子とのやり取りと決別のシーンは見事でした。

4.香坂めぐる

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こちらは音楽の呪いにかかりつつその先を見つめることがなかったルートです。

こちらは短い、マジで短い。

香坂めぐるがどのようにして現在のような音楽の向き合い方を始めたかが語られます。

まあこれはこの後の三日月ルートの補強でしかなかったな…という印象が強いです。

音楽に生きた人間の末路が描かれますがこれも一つの答えなのだと思います。

ああいう風に逝くことができるのは正直憧れますね…

4.Dr.flower

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さてここからが本題です。

この先2つの道に分かれますが選ぶ道は同じ、音楽の呪いが解けることなく、そして花井是清が残していった音楽への意味を追いかける物語です。

成功を重ねつつ少しずつ袋小路に入っていく描写が本当に上手かったです。上手くいくけど思ったような結果は得られない、でもそれを伝える描写は淡白で普通の日常が描かれる。でもやっぱり焦りが感じられるテキストもあり、追い込んでいく件もある。

だんだんと胃が痛くなるし…明らかに壊れかけていく主人公が見えてかなり辛かったです…がこんなの序の口だったんですよね。

最後にして一番重要な選択が迫られます。それはバンドの要であり、一番初めの相棒であり、どんなことがあっても信頼し続けてくれる三日月を手放すかどうかという選択です。

ここから先はさらにネタバレが含みます。未プレイ者に一切考慮していないのでお気を付けください。

 

5.来島澄

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 まずは三日月を手放したルートです。

手放した結果三日月は大成功を、残されたDr.flowerのメンバーは現状維持を与えられます。しかし風雅が倒れた後からその日常も崩れてDr.flowerも解散して主人公はたった一人で音楽を続けていくことになります。

... 最後まで読み切った上で振り返ると風雅が倒れたことが最もダメだったんでしょうね。その時にかけられた言葉も何もかもが彼を孤独にしてしまいました。

その後も路上ライブをするのですが考え方が本当に酷い。弥子ルートで示唆されていた傲慢性が顕著に出ます。この辺でここまでこいつも堕ちたかと悲しくなりました。

そんな中で出会ってしまったのが来島澄、彼女はそんなどうしようもないクズに堕ちた彼の音楽を好きだと言ってくれました。だからなのかいつの間にか同棲して一緒に生活するようになります。ヒモとして。

まあどこまでも堕ちたなこいつ…ここにたどり着くまで音楽を続けると言いながらヒモ生活をして彼女に風俗で働かせるクズもいましたがそれと同レベルのクズに堕ちてました。しかもその人物が真っ当に生活している姿まで出てくるから余計にクズさが際立ちます。

そしてさらに孤独になっていく。音楽業界へのきっかけを与えた八木原も、もう一度バンドをやろうと言ってくれたDr.flowerのメンバーも、クズと馬鹿にしていた金田さえも無視してそれでも傲慢に自分の音楽は誰にも理解されない、そんなことをのたまいながらただ澄に依存しながら生きる。それも自分の曲好きだと言ってくれたことさえ信じず、理解できているはずないと馬鹿にしながら…この辺でこいつさっさと地獄のような目に会わねえかなーとか思いながら読んでました。

そして澄に妊娠したと告げられ、堕胎しろと告げた時本当にこいつは終わったなと思いました。これは自殺エンドかなーとか思っていたら…ねぇ…

少し立ち直ってまともになったと思ったら病院からの呼び出し。

…どこかで読んだことがある、というか数日前に読んだ(キラ☆キラはMUSICUS!到着当日に終わらせてます)。そして案の定澄の遺体とのご対面でした。

キラ☆キラでもそうだったのですが傷痕が本当に生々しいんですよね…見てて本当に辛かった。そして本来裁かれるべきではないはずの彼女がああなったのが何よりも悲しかった。

そしてそうなった原因が主人公が作った曲に夢中になっていたから反応に遅れて交通事故に遭ったという事実が酷かった。流石瀬戸口!と言いたいとこですが本当に人の心があるのかよこいつ…ってなりましたね…

基本的にエロスケのレビューは見ないようにしてるのですが1つだけ心に残っているレビューがあります。それがこれです。

erogamescape.dyndns.org

結局彼がたどり着いてしまったのは誰も、すぐ隣に居たはずの彼女さえ信じることができなかったからなんでしょうね…花井是清と同じ場所にたどり着いてしまった悲しい反面ざまあみろという思いも出てくる物語です。

それでも最後の最後で一つの答えを得た彼は幸せなのかもしれませんね…哀れだと思いますが。

6.花井三日月

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対してこちらは三日月を手放さなかったルートです。

手放さなかった理由も含めて三日月の言葉を信じ続けたからこそ得らえた結果なのだと思います。だからこそ沢山の人の好意を受けて成功を得ることができました。

さてこのルートでは作中で重要な拠点として出てきたライブハウスが閉店するというエピソードが存在します。このエピソード、実は作中で1,2を争うくらいには好きなのですが不満があるのです。それはアジア帝国の扱いです。

ここに至るまで何回も出てきては謎の行動だったり金田との仲の良さでどちらかというとギャグ側のキャラクターとして描かれていたのですが、その彼らがこのライブハウスのラストライブに出てきます。彼らとライブハウスのオーナーは折り合いが悪く入場NGを受けていたのですが…最後の最後に現れてくれます。

そのライブが最高にカッコ良くてこれまでギャグキャラとして扱われていたのを忘れさせるだけのものだったんですよ

何故

 曲を

  用意

   して

    ない

いやまじで何故…しかも彼らの最後の出番なのに…マジでもったいない。

閑話休題

さてそんなライブハウスのオーナーのおかげできっかけをつかみ、順調に成功を積み重ねていきます。メジャーデビューも紅白出場もしてまあ大成功していきます。この辺がご都合主義と指摘されがちですが、まあテーマとしては成功したバンドを描くことだと思われるのであまり感じなかったですね…

それでも花井是清が残した音楽の意味の答えは見つかりません。そんな中で三日月もだんだんと迷い始めて…暴走したファンの引き起こした傷害事件をきっかけで歌えなくなってしまいます。

澄ルートほどではないですがまあ悲惨なことが起こりますね…

ここで歌う意味を見失うばかりか誰かに伝えたいと思いを否定されてしまうわけですが…犯人の動機を聞いた時の彼女の言葉が忘れられないです。

その先歌えなくなった彼女と一緒に過ごし、もう歌えないのなら一緒になろうと約束しそしてまあそれなりにハッピーエンド…とはならないのが瀬戸口廉也です。

 

さてここまで4つの物語を追いかけてきています。

音楽の呪いが解けた物語もありました、楽しむことを忘れず先を考えることなく続ける物語がありました、誰も信じることができず自分の価値に籠ってしまった物語がありました、そして今この物語は成功をして世間にも認められたです。

それでも花井是清が問いかけた音楽の意味は見つかることがありませんでした。どうして音楽を奏でるのか?そもそも音楽に価値があるのか?その答えはここに来るまで結局見つかることがありませんでした。だからこそ三日月は歌うことができなくなり、歌声で誰かに伝えることができなくなりました。

そんな彼女たちをもう一度前に進ませたのが始まりの人、八木原率いるSTAR GENERATIONでした。彼との問答とそしてそのライブで現れた花井是清の幻影が一つの答えを提示します。

自分は答えがMUSICUS!という作品のすべてであり、他のコンテンツにも言えることなんじゃないかなと思うのです。作品を作る側も読む側も時々これは無意味なのかもおしれないと感じる瞬間はあると思います。少なくとも自分はあります。でもそんなもの関係ないのだと思います。ただそれが大切なものならば絶対に手放すべきじゃない。それを強く強く感じさせてもらいました。

そして最後の演出とEDはこの作品を締めくくるのに相応しいものでした。

ED曲であるMagic Hourの一節

失ったものも少なくはない

涙の数も数えた日も

正解なんて関係ないんだからねっ

もう決めたから

この歌詞を見たときにそれまでCFで感じていた怒りも薄れてしまったんですよね…

心から見たいと思っていたものが見えた、そう感じてしまって。

この先の彼らがどのように生きて、どんな曲を奏でるか、ほんの少し気になりますが気になりますがそれはきっと蛇足なのでしょうね。最高のカーテンコールでした。

7.終わりに

色々と激論が繰り広げられている印象ですが、シナリオと原画に関してはこの作品は大好きです。ただ色々とやらかしてくれているので複雑な想いばかり…あんだけ金集めたのに演出しょぼいとかUIゴミとか雑誌に使った金を何故作品に使わなかったとか山ほど言いたいことがあります。

それでも今年を代表する作品に違いないでしょうね。

良い作品でした。

 

 

P.S. 1/13(月)ほんの少しの挑戦としてニコニコ生放送で配信をさせていただきます。

正直かなり不安ですし、性に合わないことしようとしてると思っています。

それでも何か一歩踏み出さないと何も始まらないと思うので。

お付き合いいただけるなら来ていただけると嬉しいです。

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