保坂新の戯言集

どこかの誰でもないアンポンタンがどこかの誰かである人が作った作品にうだうだ一丁前に評価を下すブログです 話半分に流していただければ幸いですTwitter:@chuhri0703

Keyシナリオライター傾向考察 第二回 新島 夕

先週掲載したライター考察記事の方を読んでいただいた方々、本当にありがとうございます。

おかげで心を折られることなく第二回を掲載できます。

今回のライターは新島夕さんです。

現在のSAGAPLANETSの礎を作ったと言われる四季シリーズにおいて、多くの傑作を生みだし、Summer Pocketsでのメインライターを務め、サクラノ刻への参加が公表されている名ライターです。

一方でそのシナリオの終わり方の大半がビターエンドであることも有名で、独の強いライターであることで知られています。

今回はそんな新島氏の作品の中の特長を考察していきましょう。

 

なお今回もネタバレ満載です。

特にナツユメナギサ、はつゆきさくらは物語の根幹である重大なネタバレがあるのでプレイ予定の人は注意をお願いします。 

 

 

新島 夕

 

代表作:Summer Pockets, はつゆきさくら, ナツユメナギサ

 

新島氏を語るうえでまずはナツユメナギサ、はつゆきさくらを挙げなければいけないだでしょう。

この作品は共に死別がその作品で大きな意味を持っています。この二つの作品の起点として前者はメインヒロイン、後者は主人公の大切な人を失うことで起こってしまいます。

ナツユメナギサは悲劇から向き合うことができなかったヒロイン達を救うという側面が特に強く、メインヒロインである七瀬歩だけでなく美浜羊、青山つかさ、老樹真樹、遠野はるか(彼女に関しては正確にはアリア)といったヒロイン達は多かれ少なかれ後悔やトラウマを抱えています。今作ではそれらを主人公が解消していくことで現実を受け入れていきます。

はつゆきさくらは反対に後悔を持つのは主人公です。大切な人たちを失った悲しみとそれを基にして植え付けられた復讐心をどのように解消していくかが各ヒロインルートでは主眼となっていきます。事実復讐の意味のなさに気が付くことができなかったラン、シロクマルートにおいては復讐を遂行してしまい悲劇を起こしてしまいます。そのほかのヒロインにおいても後悔の念からか彼女たちと歩む未来ではなく別れてしまうルートが多いです。本当の意味で主人公が救われる物語はメインヒロインである玉樹桜のルートでのみとなっています(東雲希のルートでは救われたという解釈もできるが今回は別離と考えます)。彼女は主人公が失った大切な人の一人であり、最後の最後までどのルートでも彼のことを愛し続け彼が復讐心を忘れることができないのならその復讐に力を貸すことさえします。ですが、主人公が復讐しても誰も救われないという現実を受け入れることができたとき、主人公は初めて未来へと進むことができます。

これらの作品ではギミックとして死者の生き返りを用いていますが、これはつらい現実としての象徴として死別を選ぶことが元となっていると考えられ、事実他の作品では異なるギミックを選んでいます。

 

そしてその最たる例は恋×シンアイ彼女でしょう。この作品はコンセプトと実際のシナリオにあまりに大きすぎる差があったことから悪い意味で話題になった作品ですが、新島氏が書いている物語はやはり変わっていません。

まず新堂彩音ルートですが、これはある意味で凡庸なキャラゲー的なシナリオになっています。しかしこのただ単純に幸せなだけのシナリオはオーラス構成である今作において後々大きく効いてきます。彼女に関しては開始時点で好感度がマックスとなっています。つまり言い方は悪いですがその思いを受け入れさえすれば確実に幸せな結果へと導かれるという証左であるともいえます。

しかし今作ではそれは許されていません。メインヒロインの姫野星奏の存在です。彼女は作品中で3回主人公の元から無言で去ってしまっています。それでも主人公は彼女を追いかけ続け、彼女が本気で追いかけ続けた物とその想いを知ることになります。

このように彼女のルートに関しては正直ハッピーエンドとはとても言える代物ではありません(ラストシーンで再会が示唆されていますがあくまで示唆でしかない上その後はどうなるかも描かれていません。おそらく再開であっていると思いますが…)。しかしここにこそ新島氏が書きたかったものがあるのではないでしょうか?

新堂を始めとした他のヒロインを選べば幸せにもなれたにもかかわらず選ばずに茨の道を進み続けた。その結果が悲愛であったとしても全力で追いかけ続けた日々を否定することなくその結果を受け入れる、これこそ氏が今作で描きたかったことではないだろうか。

正直あまりに毒が強すぎる上に美少女ゲームの文脈という意味では最悪なことをしています。ですが私個人としてはテーマ自体は非常に面白いと感じ、もっとやり方を変えれば評価は変わったのではないかとも思わずにはいられません。とりあえず続きを小説で書いてください。

 

そんな新島氏が最新作であるSummer Pocketsに参加しました。発表当初は批判の声が強く、発売日前日まで新島氏を起用したことへの疑問が掲示板に書き込まれるほどでした。

では実際はどうであったか?まずは久島鴎ルートから語りましょう。彼女は前提としてすでに亡くなっている少女の後悔の思いが島に存在する七影蝶というギミックから現実に干渉できるようになった存在です。この少女の主題になったのは空想の中にしかなかった夏を現実にするというものでした。彼女をモデルとして作られた絵本の物語を本当のものにすることで彼女の物語は一つの終わりを迎えます。このルートでもやはり存在しないと思っていた未来の眩しさを知り、その楽しさを受け入れることで前に進むというシナリオを書いています。

また鳴瀬しろはにおいては起こる悲劇を受け入れ、支え合うことで立ち向かっていく強さを、ALKAでは本作のもう一人の主人公であるうみは両親に愛されていたという現実を知り、二人を幸せにするために自らを犠牲にする少女の物語が書かれています。このシナリオにおいてもはっきりと語られますが「過去にとらわれずに、眩しい未来へ進むべき」という物が軸になっています。

今作を最大の特長はこれまで過去への決別を強調していた新島氏が未来へ進むことを強調したことであると考えられます。恋×シンアイ彼女で反省したのか、Keyによる指示なのかはわかりません。ですが今後新島氏がどのようなシナリオを作っていくのか非常に楽しみです。

 

以上のようにどの作品でも程度の差はあれど、過去の決別と未来への歩みを書いています。ここから共通点を導き言葉にするとしたら、新島氏のシナリオのテーマは「過去を受け入れ、未来を大切に歩む」でしょうか。

 

ここで今度は麻枝氏とのシナリオを比較して考えてみましょう。

前回の記事で麻枝氏の特長を「無慈悲な現実にどう立ち向かっていくか」としました。この二人のシナリオの特長を並べてみると未来に進むという点では類似しています。しかし大きく異なる点が一つあります。

それは麻枝氏のシナリオは足掻くことを前提としており、新島氏のシナリオは受け入れることを前提としています。このため二人のシナリオでは奇跡の有無という大きな違いが生まれています。望んだものを手に入れるためにひたすら足掻き、一番の結果は得られないとしても幸せをつかみ取る麻枝氏のシナリオ、対して過去の出来事を否定せず、悲しいことも嬉しいことも何もかもを受け入れて今目の前にある幸せを手にする新島氏のシナリオ、この二つは類似しているようで過去のとらえ方という点で微妙に異なっています。だからこそ我々が見てきたキャラクター達の幸せそうな姿を終わったものとして扱う新島氏のシナリオは最後に寂しさが残ってしまうのではないでしょうか?

 

いかがでしたでしょうか?

正直ちゃんと言葉にできたか自信はありませんが新島氏のシナリオがビターエンドになる理由への解となっていれば幸いです。

 

さて「かい」と言えばKeyにおいて欠かすことがデイないライターの名前も「魁」先生でしたね。

彼のシナリオはAIR美凪ルート後半や杏ルート、蒼ルートが有名ですが、tone work'sでもその腕を全力で振るっています。そんな彼のシナリオの考察を次回はやっていきましょう。なおまだ全然書いていない模様

 

来週までに頑張ります…